「冬場は特にお腹の風邪が流行しやすく、自分の子どもがかかったらと思うと心配」
「子どもに吐き下しの症状があるけれど、どのように対応したら良い?」
子どもがよく罹患する病気の1つにウイルス性の胃腸炎があります。激しい嘔吐や下痢で苦しむ我が子に、どう対応してあげたら良いか悩んでいる保護者の方も多いのではないでしょうか?
本記事では流行性嘔吐下痢症の原因となるウイルスや、罹患した子どもへの対応方法などを解説します。
予防接種や吐き気止めの薬についてのよくある質問にも回答しているので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
嘔吐下痢症とは?冬場に多いお腹の風邪
嘔吐下痢症とは、一般的に「お腹の風邪」「吐き下し」と言われている病気のことです。
ウイルス性胃腸炎とも言い、感染性胃腸炎の中でも特にウイルス性のものを指します。ウイルスがお腹の中に入って暴れ、下痢や嘔吐の症状を引き起こすと考えて良いでしょう。
冬場に罹患するケースが目立ちますが、1年を通してかかる可能性があります。
嘔吐下痢症の原因は?よく見られるウイルスと症状を紹介
嘔吐下痢症の原因となるウイルスは数多く存在しますが、その中でも特に多く見られる5つのウイルスを、罹患した場合の症状とあわせて説明します。
ロタウイルス
主に乳幼児が感染するウイルスです。潜伏期間は1~3日。
下痢が長引くため、中等度以上の脱水症状の危険があることで知られています。嘔吐の他に発熱も見られるケースが多く、3ヶ月未満の乳児の場合は特に高熱に気をつける必要があります。
ノロウイルス
秋から冬にかけ、子どもから大人まで全年齢で強い感染症状が見られるウイルスです。
潜伏期間は半日~2日。保育園や幼稚園だけでなく学校での集団感染もよく見られるので、年の離れた兄弟がいる場合も注意が必要です。ロタウイルス同様、嘔吐・下痢・発熱が見られます。
年齢に関係なく罹患するので、家庭内感染に気をつけなければならないウイルスです。
アデノウイルス
夏に子どもの間で流行する「プール熱(咽頭結膜熱)」の原因としても有名なウイルスです。
潜伏期間は5~7日とやや長め。感染性胃腸炎を引き起こす型の場合は嘔吐と下痢の症状がメインとなりますが、発熱が見られる場合もあります。
サポウイルス
人から人以外に、二枚貝をはじめとする生食品からの感染が多いウイルスです。
潜伏期間は半日~2日。嘔吐・下痢・発熱、すべての症状が見られます。潜伏期間や症状共にノロウイルスとよく似ており、以前はノロウイルスと併せて「小型球形ウイルス」と呼ばれていました。
ノロウイルスとの違いを専門家以外の者が見分けるのは難しいと言われています。
アストロウイルス
ロタウイルスやノロウイルスに比べると知名度は落ちますが、乳幼児の嘔吐下痢症の主な原因として知られるウイルスです。
潜伏期間は1~4日。ロタウイルスやノロウイルスと比較すると、軽症で済む傾向にあるのが特徴です。
嘔吐下痢症のウイルスはどのようなルートで感染するの?
嘔吐下痢症はさまざまなルートで感染します。最も多いのは、「糞口(ふんこう)感染」や「経口感染」です。
ウイルスに感染している人の吐しゃ物に触れた手で物を食べたり、汚染された糞便を処理したりすることでウイルスが自分の体内にも入ってしまう感染経路です。
また、ウイルスに感染した人が触れたテーブルなどを触ることによりうつる「接触感染」や、くしゃみや咳にウイルスが混じり、それが空気を伝ってうつる「飛沫感染」でも罹患します。
人以外では汚染された二枚貝などから感染するケースもあります。
子どもが嘔吐下痢症に罹患した場合の対応は?
子どもが嘔吐下痢症にかかった際は、以下の3つのポイントに気をつけて対応しましょう。
最も大切なのは水分補給
最も大切なのは水分補給をしっかり行うことです。
嘔吐と下痢の症状がある場合、体内の水分が大量に排出され、脱水症状を引き起こす危険性が高まります。
ただし、嘔吐した直後は繰り返し吐いてしまうことが多いため、無理に水分を摂らせず、少し落ち着くまで様子を見ましょう。
1時間程度時間を置き、嘔吐が治まっているようなら水分を摂らせます。
1度で大量に補給させないのがポイントで、「少しずつ、何度も(少量頻回で)」飲ませるよう心がけましょう。
はじめは小さじやティースプーン1杯程度の量を、10~20分置きに摂取させます。何回か飲ませて吐き戻さないようであれば、様子を見ながら少しずつ摂取させる量を増やしても問題ありません。
飲ませるものはただの水ではなく、体内の水分と成分が似ていて、なおかつスムーズに吸収しやすい「経口補水液(けいこうほすいえき)」がおすすめです。
食事は嘔吐が治まってから
嘔吐や酷い下痢が落ち着いたら少しずつ食事を摂らせましょう。
食欲がないようなら、経口補水液での水分補給をしっかり行ってください。無理に食べさせる必要はありません。
消化の良いものを中心に、おかゆなどの柔らかいものからはじめ、様子を見ながら徐々に固形物へ移行させましょう。
おすすめの料理と避けるべき料理は次の通りです。
おすすめの料理 | 避けるべき料理 |
・具のない味噌汁(スープ) ・おかゆ ・よく煮たうどん ・パン粥 ・すりおろしたリンゴ | ・かたい肉 ・消化しにくい野菜 ・脂もの ・柑橘系の果物(ミカンなど) |
症状が酷い場合は夜間でも医療機関の受診を
嘔吐下痢症は家庭で対応できる感染症ですが、次のような症状が見られる場合はすぐに医療機関を受診しましょう。
- 嘔吐が治まらず脱水症状の危険がある
- 意識がない
- けいれんが見られる
- 血便や酷い腹痛がある
- 3ヶ月未満の乳児で38度以上の発熱が見られる
他の家族にうつるのを予防するためにできることは?
親兄弟など、一緒に暮らす他の家族に感染が広がらないためにできる工夫は次の通りです。
吐しゃ物を処理する際に気をつけるべきこと
吐しゃ物を処理する際は必ずマスクと使い捨て手袋を着用し、直接触らないよう気をつけてください。
汚れた床や壁は塩素系の漂白剤で必ず消毒しましょう。汚れた洋服やシーツも、必ず塩素系漂白剤で消毒してから洗濯機で洗うのがポイントです。
吐しゃ物がついた布類をそのまま洗濯機に入れてしまうと、ウイルスが広がってしまう可能性があります。
洗濯せずにそのまま廃棄する場合は、ビニール袋に入れ、しっかり口を縛って捨てるよう心がけましょう。
家庭内での感染拡大予防策
他にも、家庭内で感染を広げないために、以下のことに気をつけてください。
- 感染中の子どもとはタオルを分ける
- 感染中の子どもと他の家族は分けて食事を摂る
- ドアノブやテーブルなどはこまめに消毒する
- いつも以上に手洗い・うがいを心がける
嘔吐下痢症に関するよくある質問
嘔吐下痢症に関するよくある質問をまとめました。
嘔吐下痢症の赤ちゃん(乳児)に対して母乳を飲ませても問題ありませんか?
嘔吐が落ち着いたら飲ませて問題ありません。
1度に大量に飲ませると吐き戻してしまう可能性が高いため、搾乳し、数回に分けて少しずつ飲ませましょう。
嘔吐下痢症の赤ちゃん(乳児)に飲ませるミルクは薄めた方が良いですか?
母乳と同じように、薄めず飲ませて問題ありません。少量頻回を心がけて摂取させましょう。
自宅に市販の経口補水液がありません。経口補水液は作れますか?
経口補水液は塩と砂糖があれば自宅でも簡単に作れます。
湯冷まし1リットルに対し、塩3g(小さじ1/2)と砂糖40g(大さじ4と1/2)を加え、軽く混ぜましょう。
レモン果汁などを加えるとさらに飲みやすくなります。
経口補水液の代わりにスポーツドリンクを、と考える方もいますが、市販のスポーツドリンクは嘔吐下痢症で嘔吐した直後に飲ませるには濃すぎるため、おすすめしません。
子どもがひどく吐いていて心配です。吐き気止めを飲ませても良いですか?
吐き気止めを使っても、残念ながら嘔吐下痢症が根本的に治るわけではありません。
しかし、子どもが辛そうな場合は使用を検討しても良いでしょう。
飲ませるタイプのものは吐き戻してしまうことがあるため、座薬タイプのものがおすすめです。
嘔吐下痢症に効果のある予防接種はありますか?
ロタウイルスワクチンがあります。
公費で受けられる無料の予防接種(定期接種)で、2回受けるタイプのものと3回受けるタイプの2種類があります。
どちらのタイプかは接種するクリニックによって異なりますが、いずれも初回は生後6週間~14週6日までに受けることを推奨されています。
症状がどの程度治まったら登校・登園させても良いのでしょうか?
嘔吐と酷い下痢が続いている場合は欠席させてください。
嘔吐が治まり、普段の食事が摂れるようになって、下痢も落ち着けば登校・登園を検討しましょう。
嘔吐下痢症の罹患後は、数週間便にウイルスが混ざると言われています。
便へのウイルス排泄は数週間続くので、排泄物の処理の際は感染対策を続けましょう。
嘔吐下痢症には水分補給と家庭内感染拡大対策を大切に
今回は「嘔吐下痢症」について取り上げました。
ウイルス性胃腸炎である嘔吐下痢症は、冬場に乳幼児がよく感染する病気です。当てはまる症状が見られたら水分補給をしっかり行い、家庭内での感染が広がらないように注意してください。
脱水症状やけいれんなど、重い症状が見られるようなら、夜間でもすぐ救急外来を受診しましょう。
監修医師
古東麻悠(ことう・まゆ)
順天堂大学医学部卒業。途上国医療に関心を持ち、学生時代よりアジア・アフリカ各国の保健指導、巡回診療に参画。子どもたちのトータルサポートを目指し、小児科医として働きながらNPO法人very50、NPO法人Ubdobe(現株式会社デジリハ)のメディカルアドバイザーを兼務。現在は都内総合周産期病院にて新生児科医として勤務。一児の母。