水疱瘡(水ぼうそう)は、水痘(すいとう)とも呼ばれる感染症です。主に子どもがかかる病気と思われがちですが、免疫を持たない大人にもうつることがあります。
大人が感染すると治るまでに時間がかかったり、重症化のリスクが高くなったりするので、病気の特徴や治療法を正しく知っておくことが大切です。
本記事では水疱瘡の症状や対処法、感染予防のポイントを解説します。
症例写真も掲載していますので、医療機関を受診する際の参考にしてみてください。
目次
これは水疱瘡(水ぼうそう)?受診のサインを自宅でチェック
大人が水疱瘡にかかると、次のような症状が出ます。
- 発疹がある
- 倦怠感がある
- 発熱している
特にかゆみをともなう発疹は一見、蕁麻疹(じんましん)と見分けがつきにくいので、注意したい症状です。発疹だけでなく倦怠感や発熱も見られる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
発疹がある
水疱瘡にかかると、痛みやかゆみのある発疹が頭皮・胴体・手足の順に全身に広がります。
蕁麻疹と違って短時間で消えず、徐々に水ぶくれ(水疱)に変化するのが特徴です。
水疱瘡の原因となる水痘・帯状疱疹ウイルスの潜伏期間は、2週間程度です。
過去2週間程度の間に水疱瘡の患者と接触したことがあり、これまでワクチンを一度も接種していない、水疱瘡にかかったことがない場合は、水疱瘡を疑いましょう。
水疱瘡を放っておくと、周囲に感染を広げてしまいます。発疹の痛みやかゆみがひどい場合は、事前に連絡を入れたうえで、指示に従って皮膚科を受診してみてください。
倦怠感がある
大人の水疱瘡の特徴は、強い倦怠感をともなうことです。
疲れていたり、ひどい風邪を引いたりしたような倦怠感が強く出るため、水疱瘡にかかったと気付きにくいとされています。
発熱している
大人が水疱瘡にかかると、子どもよりも高い熱が出やすい傾向です。
発熱は他の病気でも見られる症状なので、熱が高い場合は様子を見ずに、早めに医療機関を受診してみてください。
大人にもうつる水疱瘡(水ぼうそう)とは
水疱瘡は、水痘・帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。ウイルスの潜伏期間は2週間程度で、発症すると痛みやかゆみをともなう発疹や発熱、倦怠感などの症状が現れます。
水疱瘡は「水痘(すいとう)」とも呼ばれることがあり、同じ病気です。
水疱瘡は、すべての発疹がかさぶたになった段階で「完治した」と診断されます。完治までの時間は、1週間程度です。しかし個人差があり、症状が重い場合はそれ以上かかる場合も少なくありません。
感染経路
水疱瘡の感染経路は3つです。
- 空気感染
水疱瘡の患者と同じ空間に長期間滞在すると感染します。
- 接触感染
水疱瘡の患者とタオルや食器を共有したり、水ぶくれから出てきた体液が粘膜に触れたりすると感染します。
- 飛沫感染
患者が咳やくしゃみをした際に飛び散る飛沫を吸い込むと感染します。
かかりやすい年齢
水疱瘡にかかりやすいのは、生後6ヶ月~4歳の子どもとされています。
しかし、定期接種対象年齢以上の子どもや大人で、これまで水疱瘡にかかったことがない、ワクチンを接種したことがない人は免疫を持っていないため、患者と接触があった場合は年齢を問わずかかりやすいと考えられます。
水疱瘡(水ぼうそう)の症状
大人が水疱瘡にかかると、次のような症状が現れます。
医療機関を受診するかどうか、判断する際の参考にしてみてください。
基本の症状
水疱瘡の基本の症状は以下の3つです。
- 全身の倦怠感
- 発熱
- 強い痛みやかゆみをともなう発疹
大人が水疱瘡にかかった場合、子どもより高い熱が出て、発疹はかゆみよりも痛みをともなうことが多いとされています。38℃前後の発熱に加えて、ピリピリ・チクチクとした痛みを感じた場合は水疱瘡を疑ってみてください。
症状が進行すると、鼻の中・のど・気道・腟などの粘膜に発疹が現れることもあります。
合併症
大人の水疱瘡は重症化しやすく、合併症を引き起こすこともあります。
- 皮膚の二次性細菌感染
発疹が水ぶくれになった後、かゆいからといってかき壊してしまうと傷口に細菌が入り、化膿することがあります。
特にA群溶連菌感染症は命にかかわることもあるため、発疹や水ぶくれをかき壊さないように気を付けましょう。
- 小脳炎
小脳に炎症が起きる合併症です。小脳炎になると、体を真っすぐに保てなくなったり、ろれつが回らなくなったりします。予後は良好で、障害は残りにくいとされています。
- 無菌性髄膜炎
ウイルスによる髄膜の炎症です。発熱・頭痛・嘔吐が主な症状で、1週間程度で回復するとされています。
- 脱水症状
発熱時に十分な水分やミネラルが補給できないと、脱水症状に陥るおそれがあります。進行すると、体に力が入らなくなったり、意識障害や血圧低下などの症状が現れたりすることがあります。
- 肺炎
発熱・咳・たん・呼吸困難・胸痛などをともなう肺の炎症です。
- 肝炎
ウイルスによって引き起こされる肝臓の炎症です。肝炎になると、倦怠感・食欲不振・吐き気・黄疸などの症状が出ます。
- ライ症候群
水疱瘡に感染した子どもにアスピリンやジクロフェナクナトリウムを投与すると、発症する非常にまれな合併症です。普段アスピリンやジクロフェナクナトリウムを常用している人はアセトアミノフェンに変更する必要があるので、診察の際に医師に相談しましょう。
ライ症候群を発症すると、急性脳症や肝臓などの変性、脳のむくみなどが見られます。
水疱瘡(水ぼうそう)が大人にうつると
大人が水疱瘡にかかった場合、治るまでに1週間程度かかるのが一般的です。
しかし、症状が消えた後も水痘・帯状疱疹ウイルスが体の中に潜んでいるため、抵抗力が落ちると再び活性化し、帯状疱疹として発症することがあります。
大人は重症化しやすい
水疱瘡は、子どもよりも大人が重症化しやすい病気です。
大人が水疱瘡になった場合、脳炎・髄膜炎・肺炎・肝炎などを併発しやすくなります。
いずれも重い合併症で、命にかかわることも少なくありません。
妊婦は特にリスクが高い
妊婦が水疱瘡にかかると、本人だけでなくおなかの赤ちゃんにも大きな影響が出ます。
妊婦の場合、使える薬が限られています。その結果、症状が重症化・長期化しやすく、流産や死産のリスクも高まるため、妊娠前から予防に努めることが重要です。
赤ちゃんが生まれてきたとしても、四肢の形成不全や白内障など「先天性水痘症候群」になる可能性があります。
妊娠中に水疱瘡にならないためには、妊娠前にワクチンを接種しておくことが大切です。もし子どもの頃にワクチンを接種したことがない人は、大人になってからでも遅くないので、接種を検討しましょう。大人になってから予防接種を受ける場合は、1回あたり4,000~6、000円程度かかります。
水疱瘡ワクチンを接種したら2ヶ月は、避妊が必要です。
水疱瘡(水ぼうそう)の治療方法
水疱瘡になった場合、体力がある子どもの場合は自然治癒が期待できます。しかし、大人の場合はより重い症状が出やすいため、抗ウイルス薬や解熱鎮痛薬を服用したり、入院して点滴治療を行ったりすることもあります。
発疹の痛みやかゆみが強い場合は、フェノール・亜鉛華リニメント(カチリ)や、抗菌外用薬などの塗り薬が処方されることも珍しくありません。
自宅で療養する際は、十分な水分や栄養を摂取しながら安静に過ごすことを心がけましょう。
大人が水疱瘡(水ぼうそう)にかかった場合の7つの対処法
大人が水疱瘡にかかった際は、次の7つのポイントを意識して対処しましょう。
- お風呂はシャワーで済ませる
- 保清・保湿・保護で発疹をケアする
- 刺激の少ない服を選ぶ
- 仕事を休む
- 同居家族はワクチンを接種する
- 脱水症状に気を付ける
- タオルは共用しない
お風呂はシャワーで済ませる
水疱瘡にかかったら、患部を清潔に保ちましょう。
ただし、熱いお湯に長時間浸かると、血行がよくなって痛みやかゆみが強くなってしまうことがあります。入浴はシャワーで軽く済ませるのがおすすめです。
体は、シャワーでサッと汗を流す程度に留めましょう。
お風呂から上がったら、柔らかいタオルで押さえるように水気を吸い取るのがポイントです。
保清・保湿・保護で発疹をケアする
水疱瘡の発疹をかき壊してしまうと、細菌性二次感染が起こりやすくなります。まずは、医師から処方された軟こうなどを塗って、患部を保護しましょう。
強くかかないために爪を短く切っておくことも大切です。
どうしても発疹をかいてしまいそうなときは、軽く包帯を巻いたり、ガーゼを当てたりするとよいでしょう。
刺激の少ない服を選ぶ
発疹に刺激を与えないためにも、できるだけゆったりとした、刺激の少ない服を選びましょう。
大人の水疱瘡は、かゆみより痛みが強く出やすいといわれています。
肌にあまり触れない、ゆったりとしたシルエットの服は、風通しもよく着心地がよいのでおすすめです。
仕事を休む
水疱瘡になったら、感染リスクがなくなるまで仕事を休むようにしましょう。
法律で出勤停止期間が定められているわけではありません。しかし、すべての発疹がかさぶたになるまでは、周囲への感染リスクがあります。
症状がなくなるまでは、自宅で安静に過ごしてみてください。
同居家族はワクチンを接種する
水疱瘡になった人と同居する家族でワクチン接種をしていない人は、接触後72時間以内にワクチン接種を受けましょう。
ワクチンを緊急接種することで、発症の防止や軽症化が期待できます。
脱水症状に気を付ける
大人の場合、子どもよりも高い熱が出るため、脱水症状を起こしやすい傾向です。
脱水を防ぐためにも、こまめに水分補給を心がけましょう。汗をかいている場合はミネラルも失われてしまうので、経口補水液などで水分とミネラルを補給してみてください。
タオルは共用しない
水疱瘡になったら、家族とタオルを共用しないようにしましょう。家族と共用すると、タオルに付着した体液を通じて感染が広がってしまうおそれがあります。
最近は肌触りのよい使い捨てペーパータオルなども市販されているので、それらを使用するのもおすすめです。
水疱瘡(水ぼうそう)は予防接種で防げる病気
水疱瘡は、予防接種で防げる病気です。
1回のワクチン接種で、ほぼ100%重症化が防げるといわれています。
2回接種することで発症そのものも予防できるので、ワクチン接種を受けたことがない人はかかりつけの医療機関で相談してみましょう。
自費にはなりますが、ワクチン接種が受けられます。
過去に水疱瘡・帯状疱疹にかかったことがある人も、50歳になったら帯状疱疹の予防のために水痘ワクチンの接種を検討してみてください。
よくある質問
大人の水疱瘡に関するよくある質問をまとめました。
- 帯状疱疹と水疱瘡の違いは何?
- 大人の水疱瘡の症状は?
- 大人が水疱瘡になったらどのくらいで治る?
帯状疱疹と水疱瘡の違いは何?
帯状疱疹も水疱瘡も、同じ水痘・帯状疱疹ウイルスによって引き起こされます。
違いは発症する人と症状の出方、周囲に感染が広がるかどうかです。
帯状疱疹を発症するのは、これまでに水疱瘡にかかったことがある人です。疲れや睡眠不足などで体の抵抗力が弱まったときに、体内に潜んでいたウイルスが活性化して発症します。
水疱瘡は全身に発疹が出ますが、帯状疱疹の発疹は神経に沿って帯状に出るのが特徴です。神経に沿って出るため、チクチク・ヒリヒリとした痛みを強く感じます。
帯状疱疹は、水疱瘡と違って人にうつることは基本的にありません(免疫力が大きく低下している人を除く)。
大人の水疱瘡の症状は?
大人の水疱瘡は、子どもに比べて重症化しやすいといわれています。発疹が出る前に強い倦怠感や発熱があることも珍しくありません。
大人の水疱瘡の主な症状は、次の3つです。
- 全身の倦怠感
- 発熱
- 痛みやかゆみをともなう発疹
大人が水疱瘡になったらどのくらいで治る?
大人が水疱瘡になった場合、適切な治療を受ければ1週間程度で回復に向かいます。
しかし、放っておいた場合は、重症化のリスクが高くなるだけでなく、完治まで1ヶ月以上かかることもあるので注意が必要です。
水疱瘡と思われる症状が出た場合は、早めに皮膚科を受診してみてください。
まとめ
水疱瘡は子どもの病気と思われがちですが、免疫を持たない大人も感染することがあります。
これまで一度も水疱瘡にかかったことがなく、予防接種も受けていない人は注意しましょう。
大人が水疱瘡にかかると、次のような症状が現れます。
- 全身の倦怠感
- 発熱
- 強い痛みやかゆみをともなう発疹
大人は子どもに比べて重症化しやすいので、早期治療が大切です。疑わしい症状があれば事前に連絡をしたうえで、皮膚科を受診してみてください。
発疹がすべてかさぶたになるまでは、1週間程度かかります。
それまでは仕事を休み、水分や栄養をしっかり摂取して、安静に過ごしましょう。
監修医師
古東麻悠(ことう・まゆ)
順天堂大学医学部卒業。途上国医療に関心を持ち、学生時代よりアジア・アフリカ各国の保健指導、巡回診療に参画。子どもたちのトータルサポートを目指し、小児科医として働きながらNPO法人very50、NPO法人Ubdobe(現株式会社デジリハ)のメディカルアドバイザーを兼務。現在は都内総合周産期病院にて新生児科医として勤務。一児の母。