夏に、主に子どもの間で流行する手足口病は、特徴的な症状が出る感染症です。報告される患者の90%以上は、5歳以下の子どもです。感染対策をきちんと行わないと、家庭内で大人にうつることがあります。
本記事では、手足口病の初期症状や似たような病気との違い、治療法などを解説します。実際の症例写真も掲載しますので、「これは手足口病なの?」「手足口病かもしれない」と思ったときの対処に役立ててみてください。
目次
写真で解説|初期症状が特徴的な手足口病
手足口病にかかると、次のような初期症状が現れます。
- 小さな水ぶくれが手のひら・足の裏・口の中にできる
- 肘・膝・お尻などに水ぶくれがある
- 極端に食欲がなくなっている
- 発熱・下痢・嘔吐の症状が見られる
今、口内炎や湿疹ができている人は、手足口病に罹患しているのかもしれません。手足口病の初期症状を、症例写真も交えながら詳しく解説します。
小さな水ぶくれが手のひら・足の裏・口の中にできる
手足口病の原因となるコクサッキーウイルスやエンテロウイルスに感染すると、3~5日して手のひらや足の裏、口の中に2~3mm程度の発疹が現れます。口の中の発疹は、口内炎によく似ているのが特徴です。
手と足の発疹、または口の中の発疹だけでは、手足口病と診断されません。手・足・口のすべてに発疹が出て、初めて手足口病と診断されます。
肘・膝・お尻などに水ぶくれがある
次によく見られる手足口病の初期症状が、肘・膝・お尻などの水ぶくれです。
手・足・口と同じような2~3mm程度の水ぶくれができます。
特に近年の手足口病は、ウイルスが変異したことでお尻にも水ぶくれが出やすいとされています。
極端に食欲がなくなっている
赤ちゃんの場合、極端に食欲がなくなるのも手足口病でよく見られる症状です。口の中にできた発疹がつぶれることで、食事のたびに口の中が痛むのが原因です。
痛みが強い場合、水分も取れなくなって脱水症状に陥るケースもあります。
発熱・下痢・嘔吐の症状が見られる
発熱・下痢・嘔吐といった症状も、手足口病でよく見られる初期症状です。
手足口病で発熱が見られるのは、患者の約1/3です。熱が出ても38度以下とそれほど高くなりません。熱が出ても1~2日で下がるケースがほとんどです。
人によっては、下痢・嘔吐・頭痛といった症状をともなうこともあります。
手足口病と似ている病気
ここからは、手足口病と似ている、間違いやすい病気を紹介します。
特に似ている病気は以下の3つです。
- ヘルパンギーナ
- 水疱瘡(水ぼうそう)
- ヘルペス感染症
ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナは、乳幼児を中心に流行する代表的な夏風邪です。エンテロウイルス・コクサッキーウイルス・エコーウイルスによって引き起こされます。
手足口病と同じく、発熱や口の中の水疱(すいほう)といった初期症状が現れますが、次の点が異なります。
- 突然38度以上に発熱する
- 上あごの奥やその周辺に1~2mmの水ぶくれができる(口の中以外にはできない)
- 2~4日で解熱する
水疱瘡(水ぼうそう)
水疱瘡(水痘)は、水痘・帯状疱疹ウイルスに感染することで発症する感染症です。
代表的な初期症状には、手足口病と同じような水ぶくれが挙げられます。
水疱瘡と手足口病の違いは、以下のとおりです。
- 感染後14~16日で発症する
- 手足口病に比べて水ぶくれがやわらかく破れやすい
- 胴体部分・顔・頭に水ぶくれができる
- 水疱瘡の水ぶくれはかさぶたになる
口唇ヘルペス
ヘルペス感染症は、ヘルペスウイルスに感染すると発症します。手足口病と違い、手足に発疹は出ません。
ヘルペス感染症の初期症状は、以下です。
- 感染後4~7日で発症する
- 38度以上の高熱が出る
- 痛みをともなう小さい水ぶくれが口の中に多くできる
- 歯ぐきが腫れる
- 歯ぐきから出血する
手足口病とは
ここまでに紹介した手足口病と似ている病気の症状に当てはまらない場合、手足口病の可能性があります。
手足口病は、エンテロウイルスやコクサッキーウイルスによって引き起こされる感染症です。ヘルパンギーナやプール熱(咽頭結膜熱)とともに「子どもの三大夏風邪」に数えられます。
子どもだけでなく、大人も手足口病にかかることがあります。しかし、子どもの感染症のイメージが強いためか、気付かない人も少なくありません。
大人が手足口病を発症すると、症状が重くなる傾向にあります。特に発疹の痛みは、大人の方が強く出るとされています。なかには、足裏の発疹が痛くて歩けなくなる人もいるほどです。
また、全身のだるさ・筋肉痛・関節痛・悪寒などの症状も大人の方が出やすいとされています。
手足口病の原因となるウイルスには、いくつかの型があります。一度手足口病にかかったとしても、別のウイルスによって再発するケースもあるので注意が必要です。
以下、手足口病を解説します。
- 手足口病の症状
- 手足口病で引き起こされる合併症
- 流行しやすい季節
手足口病の症状
- 手のひらや足の裏の水ぶくれ
- 肘・膝・お尻の水ぶくれ
- 口内炎によく似た口の中の水ぶくれ
- のどの痛み
- 全身のだるさ
- 筋肉痛や関節痛
- 悪寒
- 38度以下の発熱
- 嘔吐や下痢
- 頭痛
言葉が十分に話せない子どもの場合、次のようなしぐさや反応が不調に気付くきっかけになります。
- 泣きやまない
- 機嫌が悪い
- 水分を取りたがらない
- 食事を食べたがらない
- よだれが多い
これらのサインが見られたときは、体に異常がないかくまなくチェックしてみましょう。
手足口病で引き起こされる合併症
手足口病にかかると、まれに次のような合併症を併発することがあります。
- 髄膜炎
頭蓋骨と脳の間にある髄膜に炎症が起きる。主に発熱・頭痛・嘔吐が見られる。
- 脳炎
脳に白血球が入り込んで炎症を起こした状態。頭痛・発熱・意識障害・けいれんなどが見られ、重篤な後遺症を残すことがある。
- 心筋炎
風邪のような症状や、嘔吐・腹痛・下痢といった消化器症状が出た後数時間から数日経過して、不整脈が現れる。症状が重い場合、命にかかわるケースがある。
流行しやすい季節
例年夏に流行します。
流行のピークは7月といわれています。
手足口病の感染経路
手足口病は、密な接触をともなう集団生活で流行することが多いでしょう。
子どもの場合は、保育園・幼稚園・学校などでもらってくると考えられます。大人の場合は、子どもからの家庭内感染がほとんどです。
手足口病の感染ルートは以下のとおりです。
- 飛沫感染
- 接触感染
- 糞口感染
飛沫感染
咳やくしゃみなどで飛び散った、ウイルスを含んだ飛沫を吸い込むことで感染するルートです。
接触感染
感染した人が触った物や場所に触れた手で、目・鼻・口の粘膜に触って感染するルートです。
糞口感染
おむつ替えのときなどに付着した排せつ物から感染するルートです。
手足口病の治療方法
現在、手足口病の特効薬はありません。症状に合わせた薬で痛みや発熱を和らげながら、自然に回復するのを待つのが基本です。
手足口病になったら、栄養と水分をしっかり取って安静に過ごすようにしてください。通常であれば、3日~1週間程度で快方に向かいます。
特に大人は、日ごろの睡眠不足や疲労によって体の抵抗力が落ちると罹患(りかん)しやすくなります。手足口病になったら無理をせず、体を休めるようにしてください。
子どもが手足口病に感染した場合の対処法
子どもが手足口病に感染した場合の対処法は、以下のとおりです。
- 保育園・幼稚園・学校を休ませる
- やわらかく、のどにやさしい食事を与える
保育園・幼稚園・学校を休ませる
手足口病にかかったら、保育園・幼稚園・学校は休ませましょう。
手足口病は、法律で出席停止期間が定められている感染症ではありません。しかし、周りに感染を広げないため、回復に専念するためにも、体調がよくなるまでは休むのが賢明です。
いつから登園や登校できるかは、子どもの体調次第です。手足口の水ぶくれが消えなくても、次の症状がなければ登校して構いません。
- 口の中が痛くて食事や水分が取れない
- 発熱
- 悪寒
- 下痢
- 頭痛
- 全身のだるさ
やわらかく、のどにやさしい食事を与える
口の中やのどが痛む場合は、できるだけやわらかくのどにやさしい物を食べさせましょう。
固い物、酸味や辛みのある物は避けてください。
手足口病療養中の食べ物は、次のような物がおすすめです。
- プリン
- ゼリー
- アイスクリーム
- ヨーグルト
- 薄味のスープ(少し冷まして与える)
子どもが食べられそうな物を少しずつ食べさせてください。
脱水症状を防ぐためにも水分をこまめに取らせ、必要に応じて経口補水液も活用しましょう。
大人が手足口病に感染した場合の対処法
大人が手足口病に感染した場合は、次のことを意識して対処しましょう。
- 仕事は休む
- 刺激物を避ける
仕事は休む
大人が手足口病にかかると、子どもより症状が重くなるといわれています。初期症状が軽いからといって、油断は禁物です。
法律によって、出勤停止期間は定められていません。しかし、熱が下がるまでは出勤を控えましょう。
事業所によっては社則などで出勤停止期間を設けているところもあるので、確認しておくことをおすすめします。
体調が回復して出勤する場合は、マスクをしたりこまめに手指消毒をしたりして感染対策を十分に行ってください。
刺激物を避ける
大人であっても、子どもと同様に刺激物を控えましょう。酸味や辛みのある物、炭酸飲料などは避けてください。
食事はできるだけやわらかく、のどごしが良い物を選ぶのがポイントです。のどの痛みが強い場合は、冷たい物だと食べやすいでしょう。
おすすめの食べ物は以下です。
- プリン
- ゼリー
- ヨーグルト
- アイスクリーム
- おかゆ(少し冷まして)
- スープ(少し冷まして)
- ゼリー飲料
手足口病の予防方法
手足口病は、夏風邪の一種です。かからないためには、次のことを意識しましょう。
- うがいや手洗いを実施する
- 睡眠をしっかり取る
- 感染者と物を共用しない
- おむつ交換後はよく手洗いする
うがいや手洗いを実施する
外から帰ったときはもちろん、食事の前やトイレの後など、こまめにうがいや手洗いをしましょう。
うがいや手洗いをすることで、接触感染や飛沫感染のリスクが減らせます。
特に手足口病になった子どものお世話をする大人は、こまめにうがいや手洗いをして家族に感染を広げないようにしてください。
睡眠をしっかり取る
手足口病は、睡眠不足や疲労などで体の抵抗力が落ちると罹患しやすくなります。
睡眠不足にならないように、十分な睡眠時間を確保しましょう。
睡眠の質も重要です。
夏場は蒸し暑く、寝苦しい夜も珍しくありません。寝具を見直すだけでなく、冷房も適切に使いながら朝までぐっすり眠れる環境を整えてください。
エアコンを使う場合、室温は27~28度に設定すると寝冷えを防ぎながら熟睡できます。
感染者と物を共用しない
同居する家族が手足口病になったら、家庭内感染を防ぐために食器やタオルを共用しないようにしましょう。
感染者が使用した食器やタオルには、ウイルスが付着しています。
手洗い後は使い捨てのペーパータオルを使ったり、料理は一人ひとりの皿に取り分けて食卓に出したりするなど工夫してみてください。
おむつ交換後はよく手洗いする
患者の排せつ物には、ウイルスが混在しています。おむつ交換をした後は、よく手を洗って清潔にしましょう。
使用済みおむつの処理にも、気を配ることが大切です。フタ付きのゴミ箱に捨てたり、ビニール袋に入れてから捨てたりすることで、感染リスクを下げられます。
おむつを捨てるゴミ箱やその周辺を定期的消毒するのも効果的です。
よくある質問
手足口病のよくある質問をまとめました。
手足口病かどうかを判断する際の参考にしてみてください。
- 手足口病の初期症状の特徴は?
- 手足口病の見極め方は?
- 手足口病の感染力が強い時期はいつまで?
手足口病の初期症状の特徴は?
手足口病に感染すると、3~5日後に手のひらや足の裏に小さな水ぶくれができます。
水ぶくれは硬く、破れにくいのが特徴です。
続いて、口の中に口内炎のような発疹が出てくるので、手・足・口に発疹が現れたら手足口病を疑いましょう。
小さな子どもの場合は、口の中が痛くて食事を食べたがらない、水分を取りたがらないといったことが症状に気付くきっかけになることもあります。
手足口病の見極め方は?
手足口病かどうかの見極め方は、以下のとおりです。
- 手のひらや足の裏の水ぶくれ
- 肘・膝・お尻の水ぶくれ
- 口内炎によく似た口の中の水ぶくれ
- のどの痛み
- 全身のだるさ
- 筋肉痛や関節痛
- 悪寒
- 38度以下の発熱
- 嘔吐や下痢
- 頭痛
密な接触をともなう集団生活で感染が広がりやすいので、保育園・幼稚園・学校で流行していないかどうかも見極めるポイントになります。
手足口病の感染力が強い時期はいつまで?
一般に手足口病の感染力が強い時期は、主な症状が出ている急性期だといわれています。咳や鼻水が出ている1週間程度は、他の人にうつさないように感染対策をしっかり行いましょう。
しかし、患者の排せつ物中には症状が消えた後も長くウイルスが混在しています。症状が消えたからといって油断せず、周囲に広げないように感染対策を徹底しましょう。
まとめ
手足口病は子どもの病気と思われがちですが、大人もかかることがある感染症です。
大人がかかると子どもよりも症状が重く出やすいので、感染対策をしっかり行ってかからないように気を付けましょう。
手足口病にかかると、次のような初期症状が現れます。
- 手のひらや足の裏の水ぶくれ
- 肘・膝・お尻の水ぶくれ
- 口内炎によく似た口の中の水ぶくれ
- のどの痛み
- 全身のだるさ
- 筋肉痛や関節痛
- 悪寒
- 38度以下の発熱
- 嘔吐や下痢
- 頭痛
手足口病の特効薬はありません。症状に合わせた薬で熱や痛みを和らげながら、しっかり栄養と水分を取り、安静にして回復を待ちましょう。
手足口病は、ヘルパンギーナや水疱瘡などとよく似た症状が出るので、子どもの保護者が見極めるのは容易ではありません。
手足口病かどうか分からない場合は、かかりつけの医療機関を受診してみてください。
監修医師
古東麻悠(ことう・まゆ)
順天堂大学医学部卒業。途上国医療に関心を持ち、学生時代よりアジア・アフリカ各国の保健指導、巡回診療に参画。子どもたちのトータルサポートを目指し、小児科医として働きながらNPO法人very50、NPO法人Ubdobe(現株式会社デジリハ)のメディカルアドバイザーを兼務。現在は都内総合周産期病院にて新生児科医として勤務。一児の母。