新型コロナウイルス(COVID-19)に感染した後、一部の子どもに炎症反応が現れる「MIS-C(ミスシー)」が注目されています。
MIS-Cは、コロナ感染後の子どもにとって重要な健康問題であり、その理解と認識は医療専門家だけでなく、一般の人々にとっても重要です。
本記事では、MIS-Cの基本的な情報や症状、そしてコロナ感染後の子どもがどのように影響を受けるかについて詳しく解説します。
なお、本記事は2023年8月時点での情報に基づき作成しています。
目次
MIS-C(ミスシー)とは
MIS-C(Multisystem Inflammatory Syndrome in Children)は日本語名を「小児多系統炎症性症候群」と呼び、コロナ感染後の子どもに現れる疾患です。
川崎病に似た強い全身炎症を引き起こします。
2020年4月から報告が相次ぎ、MIS-Cにかかると重症化するケースも報告されています。
MIS-C(ミスシー)の症状
MIS-Cの症状は発熱、腹痛、嘔吐、下痢が主に現れます。
発疹や目の充血など、部分的に川崎病に似ている症状もあります。
川崎病に似ている症状は一部の患者にのみ見られ、全てのMIS-C患者が川崎病の診断基準を満たすわけではありません。
さらに、MIS-Cと川崎病は症状や検査所見においても相違点が多く、これらが同一の疾患に属するかどうかは、まだ明確に解明されていません。
MIS-C(ミスシー)の特徴
MIS-Cの罹患平均年齢は8.4歳で、年長児に多く見られています。
また、発症していても、PCR検査では陰性と結果が出る場合もあります。
これは、MIS-Cがコロナの感染後数週間で発症することが多く、感染が治癒した段階で症状が出現することが多いからです。
MIS-C(ミスシー)の診断基準
MIS-C(多臓器炎症症候群)の診断には、特定の基準が設けられています。
WHOの診断基準では、患者は0〜19歳であること。次に、3日以上の発熱が見られた場合にMIS-Cだと考えられます。
さらに、以下の症状のうち、2つ以上見られる場合もあるでしょう。
- 発疹、結膜炎、粘膜皮膚の炎症
- 低血圧、またはショック
- 心筋障害、心膜炎、弁膜炎、冠動脈異常 (心臓の筋肉が正常に働かない、心臓の炎症など)
- 凝固障害(血液を止めるために必要なたんぱく質が十分に作れない状態)
- 急性消化管症状(嘔吐、下痢など)
これらの症状が見られた場合は、MIS-Cと診断される可能性が高くなります。
MIS-C(ミスシー)の治療方法
MIS-Cの治療法はまだ確立されていませんが、川崎病や重症化しているコロナウイルス患者に対しての治療法が参考にされています。
MIS-Cの症状は患者によって異なるため、各臓器の状態など、さまざまな要素を視野に入れる必要があります。
迅速な鑑別診断とともに、症状の急激な悪化に備えることが重要です。
治療計画は、患者の臨床症状、臓器障害の程度、血液検査の結果、基礎疾患などを複合的に考慮しながら実施されます。
川崎病の治療と似た、免疫グロブリン製剤やグルココルチコイドが主に用いられ、患者の約80%の中で改善が見られています。
しかし、治療が難しい場合には、生物学的製剤と呼ばれる別の薬の使用も考慮されるでしょう。
MIS-Cの治療は患者の状態や施設の経験により変わるため、個々の患者に最適な治療法を見つけることが重要となります。
MIS-C(ミスシー)を疑うべき症状
小児が腹部症状(腹痛、嘔吐、下痢など)や循環器症状(動悸、めまい、不整脈、呼吸困難など)複数の臓器に異常な症状があるときに疑われます。
川崎病に似た症状(発疹、目の充血、手足のむくみなど)は、患者の22〜64%に見られ、呼吸器系の症状は21〜65%の患者に見られます。
これは、消化器系の症状(60〜100%の患者に見られる)と比べるとやや低い頻度です。
初診時にはMIS-Cの診断基準を満たさない場合でも、病状が急速に進行し治療が必要となる場合があります。
そのため、新型コロナウイルスの流行期間中は、子どもの健康状態を慎重に観察しましょう。
MIS-C(ミスシー)の予防方法
厚生労働省は米国の研究を元に予防方法を発表しました。
12~18歳を対象にした米国の研究では、ワクチン接種がMIS-Cの予防に効果があるとの結果が出ています。
日本でのMIS-Cの発症者数は米国に比べてはるかに少ないですが、オミクロン株による小児の感染者数の増加に伴い、今後、MIS-Cの患者が増加する可能性があると考えられています。
そのため、ワクチン接種はMIS-Cの予防に重要な手段となるでしょう。
筑波大学附属病院・病院総合内科の渡邊淳之氏らの研究チームが、一連のレビューとメタ解析を行いました。
この研究から、ワクチン接種が新型コロナウイルス感染後にかかるMIS-Cなどのリスクを減少できると明らかにしています。
ワクチン接種による一部の副反応は多く見られましたが、心筋炎を含む深刻な副反応の発生は少なく、大部分の副反応は数日で消えることが分かりました。
実際にMIS-C(ミスシー)を患った人の例
- 罹患直後
小学校低学年の男の子が新型コロナウイルスに感染。
彼の症状はそれほど重くなく、自宅で回復しました。
しかし、コロナが完治してから4週間後、首の痛み、発熱、頭痛、腹痛などの症状が現れ、医療機関の受診後、MIS-Cと診断されました。
- 入院中
彼は病院で免疫グロブリンの投与を受けましたが、炎症反応の改善が見られませんでした。
さらに、彼の行動が普段とは異なり、頭部MRI検査を行った結果、脳の中の脳梁(のうりょう)膨大部に脳炎を併発していることが判明。
その後、ステロイドパルス療法を開始させたことで彼の症状は一気に改善し、入院から2週間で退院することができました。
- 退院後
退院後は、血栓予防のために1ヶ月間アスピリンを服用。
その後、心エコー検査の結果、冠動脈瘤を認めなかったため、薬は終了しました。
現在は運動の制限もなく、普通に生活をしています。
アレルギー反応を起こしている
花粉やハウスダストなどに対するアレルギー反応で、咳や鼻水を誘発することがあります。
花粉やハウスダストなどの異物が体内に入り、排除しようとする免疫反応で、咳や鼻水などの症状が現れます。
部屋の清掃の徹底や空気清浄機の使用をすれば、アレルギー物質が減り、症状は軽減するでしょう。
それでも症状が改善しない場合は、医療機関の受診を検討をおすすめします。
何らかの病気にかかっている
時折、咳や鼻水は特定の疾患の初期症状となることもあります。
前章で紹介した疾患などが考えられるでしょう。
症状が長期間続く場合や、他の重篤な症状が一緒に発生する場合、なんらかの疾患であるケースが高くなります。
適切な診断と治療のために医療機関を受診することが重要です。
よくある質問
MIS-Cに関するよくある質問をまとめました。
MIS-C(ミスシー)ってどういう病気?
MIS-C(多系統炎症症候群)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連すると考えられている小児の病気です。
主に2週間以内にコロナに感染した後に発症します。
症状は発熱、腹痛、嘔吐、下痢、皮疹、手足の腫れなど多岐にわたり、重症化すると心臓や他の臓器に影響を及ぼす可能性があります。
MIS-C(ミスシー)は何歳くらいの患者が多い?
平均的な発症年齢が8.4歳と、比較的年長の子どもたちに多く見られます。
まとめ
MIS-C(小児多系統炎症性症候群)は、コロナ感染後の子どもに現れる疾患で、主な症状は発熱、腹痛、嘔吐、下痢などです。
一部の患者には川崎病に似た症状も見られます。
しかし、全てのMIS-C患者が川崎病の診断基準を満たすわけではありません。
MIS-Cの罹患平均年齢は8.4歳で、年長児に多く見られます。
治療法はまだ確立されていませんが、川崎病の治療法が参考にされています。
また、ワクチン接種はMIS-Cの予防に効果があると報告されています。
コロナ感染後の子どもの体調に不安がある方は、医療機関の受診を検討してください。
監修医師
古東麻悠(ことう・まゆ)
順天堂大学医学部卒業。途上国医療に関心を持ち、学生時代よりアジア・アフリカ各国の保健指導、巡回診療に参画。子どもたちのトータルサポートを目指し、小児科医として働きながらNPO法人very50、NPO法人Ubdobe(現株式会社デジリハ)のメディカルアドバイザーを兼務。現在は都内総合周産期病院にて新生児科医として勤務。一児の母。