2023.09.14

耳の後ろの耳下腺が腫れる子どもの病気|おたふくかぜとよく似た病気について

子どもが耳の後ろを痛がっているとき、おたふくかぜを疑う保護者の方は多いでしょう。しかし、おたふくかぜと同じように耳の後ろが痛くなる病気は他にもあります。

本記事では、耳の後ろが痛くなる・腫れる子どもの病気を解説します。

この記事を読めば、耳の後ろが痛かったり腫れていたりするときの対応の仕方が分かりますので、ぜひ参考にしてみてください。

目次

耳の後ろが痛い場合に疑われる病気

耳の後ろが痛くなる場合、耳下腺の腫れが疑われます。

耳下腺とは唾液を分泌する「大唾液腺」の1つで、耳の下にある器官です。耳下腺がなんらかの原因で炎症を起こすと、耳の下から顎にかけて腫れ、痛みをともないます。

耳下腺が腫れる主な理由は、次の3つです。

  • 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)
  • 反復性耳下腺炎
  • 化膿性耳下腺炎

おたふくかぜは、一度感染すると原因のムンプスウイルスに対する免疫ができるので、再び発症することはありません。

おたふくかぜに罹患したことがあるのに耳の後ろが痛むときは、他の病気の可能性が高いでしょう。

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)とは?|原因・症状・対応方法について解説

ここからは、おたふくかぜを解説します。

おたふくかぜは、ムンプスウイルスによって引き起こされる感染症で、正式名称を「流行性耳下腺炎」といいます。ムンプスウイルスに感染して2~3週間すると、耳の前の頬が腫れて痛むのが特徴です。

明らかな症状が出ない不顕性感染のケースや発熱するケース、片側の耳下腺だけ腫れるケース、時間差で両側が腫れるケースと、症状の出方には個人差があります。

おたふくかぜは重篤な合併症を引き起こすことでも知られており、おたふくかぜが原因の「ムンプス難聴」になると聴力が失われてしまうこともあります。

おたふくかぜの予防接種は任意です。しかし、2回の接種で感染・発症が高い確率で予防できるので、重篤化や合併症による後遺症を防ぐためにも積極的にワクチンを接種しましょう。

反復性耳下腺炎とは?|原因・症状・対応方法について解説

反復性耳下腺炎を解説します。繰り返し耳の後ろが腫れる場合は、こちらを疑いましょう。

反復性耳下腺炎とは?

反復性耳下腺炎とは、耳下腺のほか顎下腺や舌下腺の腫れを何度も繰り返す疾患です。

顎下腺や舌下腺は、耳下腺と同じように唾液を分泌する器官で、「大唾液腺」と呼ばれます。

症状はおたふくかぜとよく似ています。しかし、おたふくかぜに比べて、発熱の症状が軽いのが特徴です。

反復性耳下腺炎の原因

反復性耳下腺炎の原因は、次のようなことではないかと考えられています。

  • むし歯や口内にいる雑菌の大唾液腺への侵入
  • 耳下腺の先天性異常
  • 唾液の停滞
  • アレルギー反応
  • 内分泌の異常

しかし、現在のところ明確な原因は分かっていません。

反復性耳下腺炎はうつる?

反復性耳下腺炎は、基本的に他人にうつる疾患ではありません。感染力が強いウイルスが原因の疾患ではないので、保育園・幼稚園・学校を欠席する必要もありません。

反復性耳下腺炎の症状

反復性耳下腺炎になると、次のような症状が現れます。

  • 耳下腺の腫れ
  • 耳下腺の痛み(おたふくかぜと異なり痛みの程度は軽い)
  • 37度台の発熱(おたふくかぜと異なり、高熱が出ることはほとんどない)

多くの場合1~6歳で発症し、年に数回の頻度で繰り返し耳下腺が腫れます。成長とともに腫れる頻度は少なくなり、思春期までに症状が見られなくなるケースがほとんどです。

初めて耳下腺が腫れたときはおたふくかぜとの見分けがつきにくく、必要に応じて血液検査を行って鑑別することもあります。

反復性耳下腺炎の治療方法

反復性耳下腺炎の治療は、対症療法が基本です。痛みがある場合は鎮痛薬を、細菌感染が考えられる場合は抗生物質を投与して治療します。

子どもが反復性耳下腺炎にかかった場合の家庭での対応方法

子どもが反復性耳下腺炎になった場合、家庭では次のことを心がけましょう。

  • 脱水を防ぐため、水分をこまめに補給する
  • うがいや歯磨きで口の中を清潔に保つ
  • 症状が落ち着いている時はガムをかんだり唾液腺のマッサージをしたりして唾液の分泌を促す
  • 食事はかまずに食べられるやわらかいメニューにする
  • 酸味のある食べ物・飲み物を避ける

熱があるときは、脱水を防ぐためにこまめに水分をとらせましょう。オレンジジュースや炭酸飲料などは唾液の分泌を促し、痛みを強めてしまうので、避けてください。

痛みがあるうちは、かたい食べ物は避け、煮込んだうどんやおかゆ、スープなどやわらかい物を中心に食べてしっかり栄養を補いましょう。

化膿性耳下腺炎とは?|原因・症状・対応方法について解説

ここからは、化膿性耳下腺炎を解説します。

化膿性耳下腺炎とは?

化膿性耳下腺炎とは、耳下腺に細菌が感染して起こる炎症です。急に発症するのが特徴で、人から人へうつることはありません。

化膿性耳下腺炎の原因

化膿性耳下腺炎を引き起こす細菌には、次のようなものがあります。

  • 黄色ブドウ球菌
  • レンサ球菌
  • 肺炎球菌

化膿性耳下腺炎の感染経路

化膿性耳下腺炎は、原因となる口の中の細菌が耳下腺に入り込んで起こります。

化膿性耳下腺炎の症状

化膿性耳下腺炎になると、まず片方の耳下腺が腫れ、痛みが出てきます。片方だけ腫れることが多く、両方の耳下腺が腫れるのはまれです。

耳下腺の腫れとともに頭痛や発熱といった症状が見られることもあります。

腫れている耳の下は赤くなり、押さえると痛みがあるのが特徴です。炎症がひどくなると、耳を押さえた際に口の中に膿混じりの唾液が出てくることがあります。

腫れがひどくなってくると次第に膿がたまり、腫れている場所が波打つような感覚を覚えることもあります。

化膿性耳下腺炎の治療方法

化膿性耳下腺炎の治療は、抗生物質の投与が基本です。

症状が軽い場合は、抗生物質を内服し、湿布や鎮痛薬で痛みを和らげます。まずは黄色ブドウ球菌に効果のある抗生物質を処方して様子を見るのが一般的です。

効果がない場合は培養検査を行って原因菌を特定し、それに合わせた抗生物質を使って治療します。

症状が重く、耳下腺に膿がたまっている場合は、切開して膿を出す処置が必要になることもあります。

子どもが化膿性耳下腺炎にかかった場合の家庭での対応方法

化膿性耳下腺炎になった場合、家庭では刺激の強い物や濃い味の物を避けましょう。

耳下腺は唾液を分泌する腺の1つです。唾液の分泌を促す刺激の強い物や濃い味の物は、痛みを強くしてしまうので、薄味であっさりとした味付けの物を与えてください。

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)・反復性耳下腺炎・化膿性耳下腺炎を見分ける方法

初めて耳下腺が腫れたときは、それがおたふくかぜなのか反復性耳下腺炎なのか、化膿性耳下腺炎なのか見分けるのは困難です。

特におたふくかぜと反復性耳下腺炎は見分けが付きにくく、繰り返し耳の後ろが腫れて初めて反復性耳下腺炎と診断されます。

耳の下や後ろが腫れて痛む場合は、おたふくかぜの可能性もあります。おたふくかぜの場合を考えて行動することで、他人に感染を広げてしまうリスクを減らせます。

我慢できる程度の痛みで、熱がそれほど高くなくても、できるだけ早くかかりつけの医療機関を受診してください。

耳の後ろが痛むその他の病気

耳の後ろが痛む病気は他にもあります。一部をご紹介します。

  • シェーグレン症候群

シェーグレン症候群は、涙や唾液を作っている臓器を中心に炎症が起きる全身性の自己免疫疾患です。
40~60代の女性に多いとされています。

  • ミクリッツ病

涙腺・唾液腺の持続的な腫れが見られる疾患です。以前は、シェーグレン症候群と診断されていました。

口の中の乾燥や涙の分泌量低下などが見られます。ステロイドを使って治療することで、涙腺・唾液腺の機能回復が見られる特徴があります。

  • 慢性線維素性唾液管炎

ゼリー状の唾液が分泌される、女性に多い疾患です。
通常、片側の耳下腺の腫れが見られます。

  • 唾液腺症

炎症をともなわずに両側の唾液腺が腫れる疾患です。
摂食障害や栄養失調のほか、服用している薬の影響で起こることが多いとされています。

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)・反復性耳下腺炎・化膿性耳下腺炎に関するよくある質問

最後におたふくかぜ・反復性耳下腺炎・化膿性耳下腺炎に関するよくある質問をまとめました。耳の後ろの腫れが気になる際の参考にしてみてください。

おたふくかぜワクチンを接種すれば、もうおたふくかぜにかかりませんか?

おたふくかぜワクチンは、2回接種することで高い発症予防効果が期待できます。任意接種のワクチンではありますが、ぜひ2回接種することをおすすめします。

熱がなければおたふくかぜではありませんか?

熱がないからといって、おたふくかぜでないとは限りません。熱がほとんど出ないケースもあります。

自己判断しないで、早めに医療機関を受診しましょう。

おたふくかぜにかかっているときは入浴を控えた方がよいですか?

ある程度熱が下がり、元気が出てきてからなら、入浴してかまいません。症状が強く出ているうちは、体力を消耗するので入浴は避けましょう。

汗をかいた際は、ぬれタオルなどで体を拭くと気分がさっぱりします。

上の子がおたふくかぜにかかりました。まだ予防接種を受けていない下の子にすぐワクチン接種させれば効きますか?

おたふくかぜにかかった子どもと接触した後、すぐにワクチンを接種しても発症を予防する効果はあまり期待できません。

症状を軽く抑える効果は期待できますが、限定的です。

おたふくかぜの特効薬がまだない現状、予防接種が受けられるようになったらできるだけ早くワクチンを接種するようにしましょう。

耳の後ろが痛む原因を理解して適切な対応を

耳の後ろが痛む疾患として、真っ先に挙げられるのがおたふくかぜです。しかし、おたふくかぜ以外にも耳の後ろが痛くなる疾患があります。

反復性耳下腺炎や化膿性耳下腺炎はおたふくかぜと見分けるのが難しいので、耳の後ろが痛むときや耳の下が腫れている場合は、おたふくかぜの可能性を考えて行動しましょう。

いずれの場合も、早めに医療機関を受診することが大切です。

監修医師

古東麻悠(ことう・まゆ)

順天堂大学医学部卒業。途上国医療に関心を持ち、学生時代よりアジア・アフリカ各国の保健指導、巡回診療に参画。子どもたちのトータルサポートを目指し、小児科医として働きながらNPO法人very50、NPO法人Ubdobe(現株式会社デジリハ)のメディカルアドバイザーを兼務。現在は都内総合周産期病院にて新生児科医として勤務。一児の母。