2023.07.16

エンテロウイルスとは|感染経路や予防法について解説

子どもの夏風邪を疑い、あてはまる症状を調べていると「エンテロウイルス」という言葉にたどり着くかもしれません。

エンテロウイルスは、子どもに多くみられる夏風邪の原因となるウイルスです。具体的な症状や対処法など詳しく知って、自分の子どもの症状がエンテロウイルスかどうか知りたい方もいると思います。

重症化のリスクもある感染症なので、正しい知識を知っておくと対処しやすいでしょう

この記事では、エンテロウイルスの感染原因や対処法、予防策、関連する病気などをわかりやすく解説します。

最後まで記事を読めば、エンテロウイルスの正しい知識が身につくので、いざというときに役立ててください。

目次

エンテロウイルスとは

エンテロウイルスは、ピコルナウイルス科に分類される小型RNAウイルスです。

夏場に流行するので「夏風邪」とも呼ばれます。

エンテロウイルスは、67種類のウイルス株の総称で、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルス、ポリオウイルスなどもエンテロウイルスです。

強い消毒抵抗性を持っているのが特徴で、ベンザルコニウムやクロルヘキシジンには効果はありません。アルコール消毒の効果は弱いといわれています。

次亜塩素酸ナトリウムやポビドンヨードでの消毒が可能です。

では、エンテロウイルスに関する以下の情報を解説します。

  • 感染しやすい年齢
  • 流行する季節
  • 主な症状

感染しやすい年齢

エンテロウイルスは、子どもを中心に流行しやすい病気として知られていますが、大人でも免疫力が低下すると感染することがあります。

ほとんどの大人は、子どもの頃にエンテロウイルスに感染し、既に免疫を持っているため、感染しません。

ただし、ウイルスの型が異なれば大人でも感染し、子どもに比べて脳炎や髄膜炎、心筋炎など、重い症状が出やすいといわれています。

流行する季節

エンテロウイルスは、夏場に患者数が急拡大する感染症です。

東京都でも夏になると手足口病やヘルパンギーナ及び咽頭結膜熱(プール熱)などエンテロウイルスが原因となる疾患に警報が出されています。

主な症状

エンテロウイルスに感染したら、急な発熱や頭痛、風邪のような症状が現れます。

風邪症状のほかにも、呼吸器疾患やのどの痛み、一部のエンテロウイルス株では、口内炎や発疹が出る場合もあります。

さらにエンテロウイルスは、腸内で繁殖し、下痢や腹痛をおこしたり、 ウイルス性肺炎を発症したりするケースもあります。

症状がひどくなるようなら、早めに医師の診断を受けましょう。

エンテロウイルスによって引き起こされる病気

続いて、エンテロウイルスが原因になる病気について解説します。

風邪と似た症状や下痢、嘔吐、発疹、頭痛、結膜炎、かゆみなどがある場合には、エンテロウイルスが原因の可能性もあります。

エンテロウイルスによって引き起こされる病気は下記の通りです。

  1. 手足口病
  2. ヘルパンギーナ
  3. 急性出血性結膜炎
  4. 急性胃腸炎
  5. 呼吸器感染症
  6. 流行性胸痛症
  7. ポリオ

手足口病

手足口病は、エンテロウイルスに属するコクサッキーウイルスやエンテロウイルス71などによって引き起こされる病気です。

毎年、夏季に流行を迎えるため夏風邪の一種としても知られています。

主な症状は口内炎、手足やひざ、おしりなどに出る発疹です。

ほかに、39℃を超える熱が出ることもありますが、軽症で済むことがほとんどです。

発疹は1週間ほど続き、徐々に消失します。

ただし、エンテロウイルス71による手足口病は、まれに髄膜炎を併発することがあります。熱が高かったり、頭を痛がったり、嘔吐を繰り返してぐったりするような場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

手足口病は、出席停止などの登園・登校を禁止する期間は定められていない疾患です。

ヘルパンギーナ

ヘルパンギーナもエンテロウイルスが原因となり発症する夏風邪の一種です。

感染力が高く、接触感染や飛沫感染によって広がります。

ヘルパンギーナの主な症状は、38〜40℃ほどの発熱や喉の赤み・痛み、口内の水ぶくれ、嘔吐、下痢などです。

特効薬やワクチンがないため、一般的には安静にし、自然治癒を待つことになります。

しかし、喉の痛みが強い、水分補給が難しいなど、家庭では対応しきれないときは医療機関を受診しましょう。

ヘルパンギーナの感染で出席停止扱いになることはありません。

ただし、全身状態が安定し回復後に登園・登校するよう学校保健安全法で定められています。

急性出血性結膜炎

エンテロウイルス70とコクサッキーウイルスA24が原因となり、発症するのが急性出血性結膜炎です。

主な症状として、結膜(白目)の出血やまぶしさ、涙目、眼脂、流涙、かゆみ、瞼の腫れなどがあります。

通常は、1〜2週間程度で症状は改善することが多いですが、流行性角結膜炎(はやり目)や通常の結膜炎にも同じような症状があります。出血性結膜炎に対する根本的な治療法はありませんが、対処療法として、抗菌薬の点眼や軟膏を処方されることがあります。

エンテロウイルスは学校保健安全法で第3種の感染症に定められており、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで出席停止とされています。

急性胃腸炎

エンテロウイルスによる急性胃腸炎を引き起こした場合は、軽度の嘔吐と下痢症状が現れます。

下痢は、軟便から水様便が1日に数回ほど続きますが、血便はありません。

腹痛がある場合が多く、強い痛みから軽い不快感まで、程度はさまざまです。

発熱がある場合は、腹痛を感じやすいでしょう。

嘔吐が主な症状である場合には、無菌性髄膜炎である可能性も考えられるので、嘔吐や食欲不振によって脱水症状がひどくなるようなら、早めに医療機関を受診しましょう。

呼吸器感染症

エンテロウイルスD68(呼吸器感染症)は、子どもの呼吸器に異常をきたす病気です。

主な症状は鼻水や咳、発熱ですが、喘息を持つ子どもの場合は喘鳴(ぜいめい)や呼吸困難などの重篤な症状を伴うこともあります。

重篤な場合は、気管支拡張剤などの投薬治療が行なわれます。

もともと喘息になりやすい方は、症状が悪化する前に医療機関を受診しておきましょう。

流行性胸痛症

流行性胸痛症(ボルンホルム病)は、多くがエンテロウイルスに属するコクサッキーウイルスB群が原因で引き起こされる熱性疾患です。

症状は強い胸痛から始まり、発熱や頭痛、咽頭痛、倦怠感を伴います。

2〜4日で治まることが多いですが、約25%の確率で数日のうちに再発し、数週間症状が持続または再発を繰り返す場合があります。

根本的な治療法はなく、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)などの服用による対症療法となります。

ポリオ

ポリオは 、エンテロウイルスの一種であるポリオウイルスに感染し引き起こされる病気です。脊髄性小児麻痺とも呼ばれます。

感染しても症状が出るのは1%以下で軽症で済むことがほとんどですが、発症した場合には、一般に2〜5%のお子さんが亡くなってしまうといわれています。特に成人では亡くなる確率も高くなります。

現状では、ポリオには本質的な治療法はなく鎮痛薬や解熱薬を服用しながら回復を待つことになります。

感染力が高いため学校保健安全法で第1種の感染症に定められており、治癒するまで出席停止とされています。

ポリオの予防は、ワクチン接種が主体となります。通常、ジフテリア・百日せき・破傷風・不活化ポリオワクチンの4種混合ワクチンとして定期接種されています。

生後3ヶ月以降に3~8週間間隔で3回接種。及び3回目接種の1年後に4回目接種できますので、必ず受けておきましょう。

エンテロウイルスに感染する原因

エンテロウイルスの感染経路は、下記の3つの感染経路が原因だと考えられています。

それぞれ解説しますので、今後の予防対策の参考にしてください。

  • 糞口感染
  • 接触感染
  • 飛沫感染

糞口感染

糞口感染は、便から排出されたウイルスが何らかの原因で口に入り、感染が広がる経路です。

症状がおさまっても、ウイルスは約2〜4週間後まで便中に存在しており、時間が経つにつれてウイルスの量が減少し、感染力も低下していきます。

したがって、ヘルパンギーナを発症した子供のおむつ替えやトイレの手伝いをする場合は、症状が治まってからも、入念な手洗いが重要となります。

接触感染

接触感染は、ウイルスがついたものに触れた手などを介して感染が広がる経路です。

感染者との接触による経路が主であるため、密接な接触を避け、こまめな手洗いを心がけましょう。

また、ウイルスに汚染された可能性のある手で口や鼻、目などの粘膜を触らないようにし、入念に手洗いを行なえば感染のリスクを減らせます。

飛沫感染

飛沫感染は、くしゃみや咳によって放出されたウイルスが口や鼻などから吸い込まれることによって感染が広がる経路です。

飛沫感染の有効な予防策は、マスクの着用です。

ただし、ウイルスは環境中や常温では不安定であり、飛沫感染であっても、結局飛沫したウイルスに触れた手を介して接触感染が起こっているといわれるので、手洗いも大切になります。

エンテロウイルス感染症の治療方法

エンテロウイルス感染症には、効果的な治療法や抗ウイルス薬がないため、症状の緩和を目的として治療が行なわれます。

重篤な呼吸器症状が出現した場合は、入院することもありますがほとんどが完治すると言われています。

しかし、心臓や中枢神経系の症状がでると、まれに死に至るケースもあるため、不安がある場合は早めに医療機関を受診しましょう。

エンテロウイルスに感染したときの対処法

エンテロウイルスに感染したときの対処法を2つ解説します。

誤った判断は、回復を遅らせる可能性もあるため、ここで正しい対処法を知っておきましょう。

  • 下痢止めはできるだけ服用しない
  • 脱水症状に注意する

下痢止めはできるだけ服用しない

下痢症状は、腸内で繁殖しているウイルスを体の外へ排出する働きをしています。

自己判断で下痢止めを服用するとウイルスが体内に残ってしまい、回復を遅らせる可能性もあります。

やむを得ず下痢止めを服用したい場合は、自己判断ではなく、医師の判断を仰いでから服用してください。

脱水症状に注意する

下痢症状があると、脱水症状が出やすくなるため注意が必要です。

無理のない範囲で、水分を摂取するよう意識したり、うながしたりしましょう。

脱水症状がひどく、ぐったりしている場合には、すぐに医療機関を受診し、医師の判断を仰ぎましょう。

エンテロウイルス感染症の予防方法

エンテロウイルスの感染を予防する4つの方法について解説します。

エンテロウイルスの引き起こす疾患には、治療法がないことも多いので予防が大切です。

ぜひ参考になさってください。

  • 手洗いうがいをする
  • トイレ後やおむつ交換後は手洗いと消毒をする
  • 感染者には接触しない
  • 生活リズムを整える

手洗いうがいをする

飛沫感染や糞口感染を防ぐには、外出後や食事の前、トイレの後、オムツ替えの後など、こまめな手洗いうがいを心がけましょう。

手洗いをしなかった場合にくらべ、ハンドソープで10秒もみ洗い後、流水で15秒すすぎを2回繰り返すと、残存ウイルスの数を約0.0001%にまで抑えられるというデータもあります。

トイレ後やおむつ交換後は手洗い消毒をする

糞口感染を防ぐため、トイレ後やおむつ交換後は、手洗いと消毒を徹底しましょう。

とくに感染者の便や分泌物を処理する際は、使い捨ての手袋などの使用がおすすめです。

使用後のオムツを処理する際は、ポリ袋に入れて廃棄しましょう。

手指消毒は、ベンザルコニウムやクロルヘキシジンでは効果がありませんので、可能な限りエタノール含有の消毒薬を使用し、手のひらや手の甲、指先、爪の間などにすりこむようにして使用しましょう。

感染者とは接触しない

できるだけ感染者との接触を避け、接触感染を防ぎましょう。

やむを得ない場合は、一定の距離を取ったり、マスクや使い捨て手袋を着用したりするなどの対策を検討しましょう。

よくある質問

エンテロウイルスに関する、よくある質問事項を下記にまとめました。参考になさってください。

  • エンテロウイルス感染症になる原因は?
  • エンテロウイルス感染症になると熱は何日続く?
  • エンテロウイルスの消毒方法は?

エンテロウイルス感染症になる原因は?

お伝えした通り、エンテロウイルス感染の原因となる経路は糞口感染、接触感染、飛沫感染などがあります。

外出後や食事の前、トイレの後などに手洗いうがいや手指消毒を行ない、感染防止に努めましょう。

エンテロウイルス感染症になると熱は何日続く?

エンテロウイルスによる発熱は、5〜7日間ほど高熱が続くこともあります。

発熱に伴い、倦怠感や筋肉痛、食欲不振などを覚えたり、まれに肺炎を引き起こしたりすることもあります。

不安なときや症状が悪化した場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

エンテロウイルスの消毒方法は?

エンテロウイルスは、強い抵抗性を持っているため、アルコール消毒の効果は限定的です。

次亜塩素酸ナトリウムやポビドンヨードなら効果があります。

まとめ

エンテロウイルスは、ピコルナウイルス科に分類される小型RNAウイルスであり、夏場に流行することから「夏風邪」とも呼ばれています。

エンテロウイルスは、67種類のウイルス株の総称なので、ウイルスの種類によって引き起こされる病気もさまざまです。

代表的な病気は下記の通りです。

  1. 手足口病
  2. ヘルパンギーナ
  3. 急性出血性結膜炎
  4. 急性胃腸炎
  5. 呼吸器感染症
  6. 流行性胸痛症
  7. ポリオ

エンテロウイルスに感染する原因となる経路は、糞口感染、接触感染、飛沫感染と3つあります。

手洗いうがいや、手指消毒、感染者との接触を避けた上で、免疫力を下げないよう規則正しい生活を送り、感染予防に努めましょう。

夏風邪と似た症状が出現した時や不安な場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

監修医師

古東麻悠(ことう・まゆ)

順天堂大学医学部卒業。途上国医療に関心を持ち、学生時代よりアジア・アフリカ各国の保健指導、巡回診療に参画。子どもたちのトータルサポートを目指し、小児科医として働きながらNPO法人very50、NPO法人Ubdobe(現株式会社デジリハ)のメディカルアドバイザーを兼務。現在は都内総合周産期病院にて新生児科医として勤務。一児の母。