子どもが発症することで知られているおたふく風邪は、大人にもうつる可能性があります。特に、対処が遅れたり誤った認識をしていたりすると女性、男性ともに不妊の原因に繋がる場合があるので注意が必要です。
本記事では、大人がおたふく風邪に感染した場合の症状や治療、ワクチンの有効性について詳しく説明します。
どのような状態なら病院に行くべきなのか、自宅でセルフチェックを行い、罹患した際の対処法や看病の方法もしっかりと理解しておきましょう。
目次
おたふく風邪の受診のサイン|自宅でセルフチェック
おたふく風邪を受診する際のサインにある4つの項目を確認しましょう。
- 耳の下が痛い、腫れている、熱い
- 今までおたふく風邪になったことがない
- おたふく風邪の予防接種をしていない
- 自分や子どもの周りで流行している
上記のような症状が見られる場合、内科もしくは耳鼻咽喉科を受診しましょう。それぞれ詳しく解説します。
耳の下が痛い・腫れている・熱い
おたふく風邪は、耳の前から下にある臓器の「耳下腺周囲」に症状がでます。腫れや痛み、熱を持っている場合、おたふく風邪にかかっている可能性があります。また、耳下腺の腫れにより、口を開けるのが困難になることもあるでしょう。
今までおたふく風邪になったことがない
一度おたふく風邪に罹患すると免疫が形成されるため、基本的には2度感染しません。
おたふく風邪の感染歴がない大人で、該当する症状がみられる場合は、罹患している可能性があります。
おたふく風邪の予防接種をしていない
おたふく風邪の予防接種を受けていない場合、感染リスクは高くなります。
おたふく風邪の予防接種の効果率は94.3%と非常に有効なため、予防接種を受けている方は、感染する可能性は低いでしょう。
予防接種を受けていない方で、症状が見られる場合は罹患している可能性があります。
自分や子どもの周りで流行している
おたふく風邪の原因であるムンプスウイルスは、接触や飛沫により感染します。
自分や子どもの周囲でおたふく風邪が流行している場合は、感染している可能性が高いでしょう。
大人もうつるおたふく風邪とは
おたふく風邪は、6歳以下の子どもが感染しやすい疾患で、流行性耳下腺炎とも呼ばれます。感染から2〜3週間の潜伏期間を経て症状が現れ、1〜2 週間で治るのが一般的です。
子どもに多い疾患ではあるものの、免疫力が低下すると大人も感染する可能性があります。また、大人がかかると、40度以上の発熱や耳下腺の腫れ、痛みがでます。合併症を引き起こし、重症化するケースも少なくありません。
一度感染すれば「終生免疫」が得られますが、例外的に2度罹患する場合もあります。
おたふく風邪の症状
おたふく風邪は、耳下腺周囲の炎症から始まります。初期症状は、頬や顎下あたりの片側の腫れ、発熱症状(38度前後)です。
そして、飲食時にのどの痛みを感じ始め、数日後には、頬や顎の下あたりの腫れが両側に広がる場合もあるでしょう。
また、症状が現れ始めてから48時間以内にピークを迎えます。一般的に、これらの症状は1〜2週間で症状が回復していきます。
大人は特に要注意|おたふく風邪の合併症
おたふく風邪は通常自然治癒しますが、稀に重大な合併症を引き起こす可能性があります。主な合併症は以下の3つです。
- ムンプス難聴
- 無菌性髄膜炎
- 精巣炎・卵巣炎
感染後、数週間は上記の合併症に注意が必要です。それぞれの合併症について解説します。
ムンプス難聴
ムンプス難聴は耳の聴力を低下させてしまう症状の疾患です。おたふく風邪が治った後も、短期的または長期的な聴力低下が起こる可能性があります。
ムンプス難聴は、治療法がなく、改善しにくいです。
また、ムンプス難聴は、子どもにも罹患する可能性があります。言語習得期の子どもにとって、成長に重大な影響を及ぼすこともあるため合併症の罹患には注意が必要です。
無菌性髄膜炎
無菌性髄膜炎は、髄膜(脳と脊髄を覆う薄い組織)に炎症が発生する疾患です。継続的な高熱(38〜40度)、頭痛、嘔吐などの症状が5日間ほど持続します。
無菌性髄膜炎も子どもが罹患する可能性があり、脳炎へ進展するケースもあるので、注意が必要です。
精巣炎・卵巣炎
おたふく風邪の合併症の中で最も特徴的な症状で、男性の場合は約30%が精巣炎とみなされ、睾丸の痛みと腫れが現れます。
女性は約7%の割合で卵巣炎に感染し、下腹部痛が症状として現れる場合があります。
精巣、卵巣の炎症は片方の性腺だけのケースが多いです。しかし、両側に炎症が及んでしまった場合は性腺組織が萎縮し、不妊症に繋がる恐れがあります。
おたふく風邪はこのような不妊を招く可能性があるため、感染する前の予防接種による対策が重要です。
おたふく風邪が大人にうつる原因
おたふく風邪は、子どもからの感染が多いです。おたふく風邪の感染経路は、接触感染と飛沫感染が挙げられます。
接触感染
接触感染は、ウイルスが付着したものに触れ、その後、手で口や鼻を触ることでおたふく風邪がうつります。
キスによる直接接触だけでなく、ウイルスが付着したドアノブや吊り革などに触れることで感染する可能性もあります。
飛沫感染
飛沫感染は、咳やくしゃみ、会話により飛び散る飛沫を吸い込むことによる感染経路です。
ウイルスは口や鼻からだけでなく、眼の粘膜からも侵入します。飛沫感染は人と人との近接な空間での交流が、感染リスクを高めます。
おたふく風邪の治療方法
おたふく風邪には有効な抗ウイルス薬はありません。
症状にあわせた対症療法が主な治療手段です。具体的には、発熱の場合には解熱剤の服用、脱水症状がみられる場合には適切な水分補給や点滴治療が行われます。
おたふく風邪はワクチン接種で予防
おたふく風邪は、こまめな手洗い、うがい、咳エチケットを行うことで、接触感染や飛沫感染のリスクが低減します。
そして、より効果的な予防策が、ワクチンの接種です。
おたふく風邪のワクチンは有効性が確認されており、多くの接種者が抗体を得られるようになっています。
特に子どもの場合だと集団生活を始める前に、計画的なワクチン接種を行うことで、感染リスクを大幅に減らせます。
参考:国立感染症研究所「流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)」
大人がおたふく風邪にかかった場合の対処法
大人がおたふく風邪にかかった場合の対処法は以下の3つが挙げられます。
- 手洗い・うがいを徹底する
- 咳エチケットを心がける
- 仕事を休む
それぞれ詳しく解説します。
手洗い・うがいを徹底する
感染者と家族がこまめに手洗い・うがいを行うことで、接触感染を防げます。
指先や手首まで綿密に洗うこと、指輪や時計を外して洗うことが手洗いのポイントです。定期的にうがいを行い口の中を洗浄することで、感染拡大を防ぐ効果もあります。
咳エチケットを心がける
感染者は飛沫感染を防ぐために、マスクを着用しましょう。着用の際は、顔とマスクとの間に隙間がないことを確認してください。
万が一マスクが手元にない場合でも、ティッシュや袖で口鼻を覆うことで飛沫の拡散を抑えられます。使用したティッシュは直ちに捨てる、咳やくしゃみを手で受け止めた際はすぐ手を洗うなどの対策も重要です。
仕事を休む
大人がかかるおたふく風邪には、法的に定められた出勤停止期間は存在しないものの、感染拡大防止の観点から休暇を取ることをおすすめします。
休まずに出勤した場合、職場での感染拡大を招きかねません。仕事を休み、外出も避けることが理想的な対応です。
おたふく風邪感染者の看病方法
おたふく風邪感染者の看病方法は、以下の5つです。
- 脱水症状にならないように注意する
- 低血糖にならないように注意する
- 刺激物を与えない
- 発熱時には毛布をかけて温める
- シャワーの後は体が冷えないようにする
それぞれ詳しく解説します。
脱水症状にならないように注意する
おたふく風邪による高熱時は、こまめな水分補給を意識してください。脱水の初期兆候として、尿の頻度や量が少なくなり、色が濃くなる傾向があります。
このような症状が見られた場合は、経口補水液などで水分補給を行いましょう。
また、人体は汗だけでなく、皮膚からも自然と水分を失います。意識的な水分摂取だけでは補えず、脱水状態を引き起こす可能性もあります。
部屋の温度調節や適切な服装を着用し、皮膚から水分を失わないように対策しておくことが重要です。
低血糖にならないように注意する
おたふく風邪の影響による開口時の痛みで、食事を取れない場合、低血糖を引き起こす可能性があります。
低血糖状態では発汗、感情の不安定、顔色の悪化、脈拍の増加、吐き気などの体調不良が見られます。
また、思考能力の低下や動作の鈍さ、反応の鈍さなどの神経系の症状も現れるケースがあるでしょう。
これらの症状がある場合は、応急的に糖分の入った飲み物の摂取をし、改善がないもしくは飲むことも困難な場合は医療機関を受診、歩くことも困難な場合は救急車を呼びましょう。
飲むことが可能であれば、低血糖にならないよう、こまめに糖入り水分の摂取を心掛けましょう。
刺激物を与えない
おたふく風邪を発症すると、口を開ける際の痛みや耳下腺周辺に痛みがでることがあります。
噛むたびに痛みが増す可能性があるため、食事の際は、口への刺激を最小限にした食品を摂ることをおすすめします。
硬く噛む必要があるものは控え、食べやすい流動食(ゼリー・スープ・うどん・豆腐など)を食べるようにしましょう。
発熱時には毛布をかけて温める
体温が上昇し始める段階では、激しい震えが生じるケースがあります。震えを感じる場合は、適切な体温管理が重要です。
室温を上げ、毛布を使って体温を一定に保ちましょう。
体温がピークに達すると、震えや寒気は自然に収まります。体感温度が高くなる場合は、体温を下げるようにしましょう。毛布を外し、汗をかいた場合は着替えることで、快適な状態の維持ができます。
シャワーの後は体が冷えないようにする
症状が安定した場合、シャワーを浴びても問題ありませんが、体力の消耗を避けるために利用時間は短くしてください。
シャワーを浴びた後は水気をしっかりと拭き取り、体が冷えないように心がけましょう。
よくある質問
おたふく風邪に関する、よくある質問をまとめました。
- 大人のおたふく風邪の症状は?
- おたふく風邪になったら大人は何科に行くべき?
- 耳下腺炎とおたふくの違いは何?
それぞれに回答します。
大人のおたふく風邪の症状は?
おたふく風邪は耳下腺の炎症から始まり、初期には片側の頬や顎下の腫れと約38度の発熱が見られます。
また、飲食時ののどの痛みとともに腫れが両側に広がるのも特徴の1つです。症状は48時間以内にピークに達し、約1〜2週間で軽快するでしょう。
おたふく風邪になったら大人は何科に行くべき?
大人の場合は、内科または耳鼻咽喉科で診察を受けてください。重大な合併症の可能性がある時は、救急外来での診察をおすすめします。
耳下腺炎とおたふくの違いは何?
おたふく風邪は、一度かかると免疫ができるため、再発しにくい特徴があります。
一方で、耳下腺炎は複数の腺が繰り返し腫れる疾患で、おたふく風邪に似た症状が見られます。
ムンプスウイルスによる感染が原因の場合もあれば、唾石症など他の病気が原因の可能性もあるので、間違わないように注意しましょう。
まとめ
おたふく風邪は、子どもだけでなく大人も感染する可能性があります。症状は耳下腺の腫れ、痛み、発熱などが代表的で、感染から2〜3週間で症状が現れ始めます。大人は合併症のリスクがあるので、注意が必要です。
おたふく風邪が疑れるようであれば、以下のチェック項目を参考に、内科もしくは耳鼻咽喉科へ受診しましょう。
- 耳の下が痛い・腫れている・熱い
- 今までおたふく風邪になったことがない
- おたふく風邪の予防接種をしていない
- 自分や子どもの周りで流行している
もし、罹患してしまった場合、医療機関を受診後、以下の項目に気をつけながら回復を目指しましょう。
- 脱水症状にならないように注意する
- 低血糖にならないように注意する
- 刺激物を与えない
- 発熱時には毛布をかけて温める
- シャワーの後は体が冷えないようにする
感染防止のためには、手洗い、うがい、咳エチケットが重要です。また、より効果的な対策は、ワクチンの接種です。感染が流行する前の計画的な対策を徹底しましょう。
監修医師
古東麻悠(ことう・まゆ)
順天堂大学医学部卒業。途上国医療に関心を持ち、学生時代よりアジア・アフリカ各国の保健指導、巡回診療に参画。子どもたちのトータルサポートを目指し、小児科医として働きながらNPO法人very50、NPO法人Ubdobe(現株式会社デジリハ)のメディカルアドバイザーを兼務。現在は都内総合周産期病院にて新生児科医として勤務。一児の母。