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2026.10.30

子どもの腸内環境は幼少期につくられる|今日から始めたい、わが子に合った「腸育」

「腸にいいこと」は、みんな同じではありません。

「便秘がちで、なかなかすっきり出ない」
「下痢をしやすい」
「よく風邪をひくし、肌の調子も気になる」

お子さんのそんな様子を見て、「腸内環境を整えたほうがいいのかな」と考えたことはありませんか。

一人ひとり異なる「腸内フローラ」のバランス

私たちの腸の中には、細菌をはじめとする、たくさんの微生物が暮らしています。その集まりを「腸内細菌叢」または「腸内フローラ」と呼びます。腸内細菌は、食べ物の一部を分解したり、腸の粘膜を守ったり、免疫の働きを整えたりしながら、私たちの体と一緒に一つの生態系をつくっています。

腸内細菌のバランスは一人ひとり大きく異なります。同じ家で同じ食事をしている家族でも、腸内にいる菌の種類や割合は同じではありません。そのため、一般に「腸にいい」といわれている食品が、すべてのお子さんに同じように合うとは限らないのです。

わが子に合った食生活の土台をつくる「腸育」

私たちは、一般にいわれる「腸活」を、子どもの腸内環境を育てていくという視点から「腸育」と呼んでいます。

そして「腸育」とは、特定の食品を一生懸命食べさせることではありません。お子さんの便や体調をよく見ながら、いろいろな食べ物に少しずつ触れ、その子に合った食生活の土台をつくっていくことです。

まずは、腸から届くサインの見方を知ることから始めましょう。

目次

便は、お腹の中から届く大切なサイン

便は日々変わる「お腹からのお便り」

子どもの便は、食べた物や水分摂取量、運動、睡眠、ストレスなどによって日々変わります。感染症や薬の影響で、一時的に便がゆるくなったり、出にくくなったりすることもあります。

そのため、少し便が硬かったり、一度下痢をしたりしただけで、「腸内環境が悪くなった」と心配しすぎる必要はありません。ただ、便秘や下痢を何度も繰り返しているときは、食生活や生活リズム、腸の働きを見直してみるサインかもしれません。

便は、「お腹からのお便り」です。排便の回数だけでなく、便の硬さ、色、量、におい、排便するときの痛みなども見てみましょう。血液や粘液が混じっていないかを確認することも大切です。

「毎日出ているか」だけではない便秘の見極め

毎日排便がなくても、苦しまずにスルッと便が出ていれば、問題ではないこともあります。反対に、毎日出ていても、硬い便を少しずつ出していたり、排便時の痛みを怖がって我慢していたりする場合には、便秘が隠れていることがあります。

便通と腸内細菌には関係があり、便秘のある子どもと、便秘のない子どもでは、腸内細菌の構成や、菌がつくる物質に違いがみられたという研究もあります。ただし、腸内細菌の変化が便秘を引き起こすのか、便が腸内に長くとどまることで菌のバランスが変わるのかは、まだ十分に分かっていません。

小児科への相談の目安

慢性的な強い腹痛、嘔吐、血便、発熱、体重の減少、成長の遅れなどがある場合や、便秘・下痢が長く続く場合は、「腸活」だけで様子を見ず、小児科に相談してください。

毎日の便を見ておくことは、その子に合った食生活を考えるためにも、病気を早く見つけるためにも、とても大切です。

腸は、免疫を学ぶ大切な場所

病原体の侵入を防ぐ「腸のバリア機能」

腸の働きは、食べ物を消化して、栄養を吸収することだけではありません。腸の粘膜には多くの免疫細胞が集まっていて、体に必要なものと、病原体などの排除すべきものを見分けています。

腸の表面は、腸粘膜や粘液、免疫細胞、腸内細菌などによって守られています。これらが協力することで、必要な栄養を体内に取り込みながら、体に有害な細菌や物質が簡単に入り込まないようにしています。これを「腸のバリア機能」といいます。

また、腸内細菌が食物繊維を分解すると、「短鎖脂肪酸」という物質がつくられます。短鎖脂肪酸は、腸の細胞のエネルギー源になります。それだけでなく、腸のバリア機能を支えたり、免疫の働きを整えたりすることも分かってきました。

乳幼児期の腸内環境とアレルギーの関連

乳幼児期は、腸内細菌と免疫の仕組みが、どちらも大きく育つ時期です。乳幼児期の腸内細菌の構成や多様性と、その後のアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、喘息などとの関連も多くの研究で報告されています。

ただし、「この菌が少ないからアレルギーになった」と、単純に説明できるものではありません。現在の研究では、腸内環境とアレルギーとの間に関係があることは分かってきていますが、詳しい仕組みについては、まだ研究が続けられています。

健やかな成長を支える日々の環境づくり

また、風邪をひきやすいことや、肌が弱いことを、すべて腸内環境だけで説明することはできません。生まれ持った体質や年齢、集団生活、睡眠、栄養状態、生活環境など、さまざまな要因が関係しています。

腸を整えれば病気にならない、というわけではありません。それでも、毎日の食事を通して腸内細菌が暮らしやすい環境をつくることは、子どもの健やかな成長を支える大切な要素の一つです。

腸内細菌の土台は幼少期につくられる

生まれた瞬間から作られる腸内細菌の世界

赤ちゃんの腸内細菌は、生まれたときから大人と同じ状態になっているわけではありません。

まず生まれる瞬間、産道を通るときに、お母さんの腸内細菌の一部を受け継ぎます。そして出生後、家族や周囲の環境に触れながら、少しずついろいろな菌と出会っていきます。母乳やミルク、離乳食、自然との触れ合い、感染症、薬などの影響も受けながら、腸内細菌の種類や割合は大きく変化していきます。

特に離乳食が始まると、腸内細菌が利用できる栄養素の種類が徐々に増えます。それにともないない、腸内細菌の世界も少しずつ複雑になっていきます。

3〜5歳頃までに形成される腸内細菌叢の土台

大規模な研究では、乳幼児期の腸内細菌叢(腸内細菌の構成)は、成長とともに段階的に発達していくことが分かっています。そして、おおむね3歳頃から、研究によっては3〜5歳頃までに、基本的な腸内細菌叢の土台ができると考えられています。

この時期は、腸内細菌だけが育つ時期ではありません。免疫の仕組みや、食べ物を消化・吸収する力も同時に育っています。腸内細菌と体が互いに影響し合いながら、将来の健康につながる基盤をつくっています。

ただし、「3歳になったら腸内環境が完全に決まり、その後は一生変わらない」ということではありません。腸内細菌は、その後も食事、生活環境、年齢、病気、薬などの影響を受けて変化します。

いろいろな食材に出会うことの大切さ

このように、幼少期につくられた腸内細菌叢は、その後の腸内環境のベースになると考えられています。だからこそ、乳幼児期から幼児期に、どのような食べ物に出会うかはとても大切です。

幼い頃からいろいろな食材に触れることは、好き嫌いを減らすためだけではありません。食材によって、含まれている食物繊維や栄養素は異なります。さまざまな食材を食べることで、いろいろな腸内細菌に、それぞれが好む“ごはん”を届けることができます。

毎日完璧な献立をつくる必要はありませんが、特定の食材や献立に偏らず、食べられるものを少しずつ増やしていく。その小さな積み重ねが、子どもの腸と将来の健康を支える土台になります。

「ヨーグルトを食べれば大丈夫」ではありません

「体にいい食品」は全ての人に合うわけではない

一般的な「腸活」と聞くと、ヨーグルトや乳酸菌飲料、納豆やお味噌などの発酵食品を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

これらは、毎日の食事に取り入れやすい食品です。ただし、特定の食品を食べれば、すべての人の腸内環境が同じように整うわけではありません。

腸内細菌のバランスは、指紋のように一人ひとり違います。もともと持っている菌の種類や割合、普段の食事、年齢、生活環境などが異なるためです。そのため、同じ食品を食べても、腸内細菌の反応や、便・体調の変化には個人差があります。

同じ食事をしたときの体の反応を調べた研究でも、その反応には人によって大きな違いがあり、腸内細菌がその違いに関わっている可能性が示されています。

わが子に合うかどうかを丁寧に見極める

「体にいいと聞いたから」と、その食品ばかりをお子さんに無理に食べさせる必要はありません。また、食べた後にお腹が張る、便がゆるくなる、腹痛が出るといった変化があるのに、そのまま続ける必要もありません。

例えば、同じヨーグルトでも、使われている菌の種類や、糖分、脂肪分などの構成は製品によって違います。あるヨーグルトは合っていても、別のヨーグルトではお腹がゆるくなることもあります。発酵食品が合う子もいれば、食べるとお腹の張りや下痢が出る子もいます。

一気に足さず、少量ずつ試して観察を

大切なのは、話題の食品やサプリメントを次々と足すことよりも、まずは「食べた後、その子のお腹や便の調子がどうだったか」を見ることです。

また、一度にたくさんの食品やサプリメントを始めてしまうと、何が合っていて、何が合わなかったのかも分かりにくくなります。まずは一つずつ、少量から試してみましょう。そして、便の状態、腹痛、お腹の張り、食欲などを観察してみてください。

多様な腸内環境を育てる、毎日の食卓

菌の多様性を支える食物繊維

腸内細菌を考えるうえで、大切なキーワードの一つが「多様性」です。

多様性とは、単純に「菌の種類が多ければ多いほどよい」という意味ではありません。さまざまな菌がそれぞれの役割を持ち、お互いに支え合いながら、安定した生態系をつくっていることが大切です。

多様な腸内細菌を育てるための基本は、腸内細菌にも、いろいろな種類の食べ物を届けることです。なかでも大切なのが、食物繊維です。

食物繊維は、野菜や果物、豆類、いも類、きのこ、海藻、穀類など、さまざまな食品に含まれています。

水溶性と不溶性、それぞれの腸内細菌が得意とする“エサ”

ひとくちに「食物繊維」といっても、その種類や性質は同じではありません。大きく分けると、水に溶けやすい「水溶性食物繊維」と、水に溶けにくい「不溶性食物繊維」があり、それぞれ腸の中で異なる働きをしています。

食物繊維は、私たちの体を整えるだけでなく、腸内細菌にとっても大切なエネルギー源、いわば“エサ”になります。

「腸は、免疫を学ぶ大切な場所」の章で少し触れましたが、腸内細菌が食物繊維を利用すると、「短鎖脂肪酸」と呼ばれる物質がつくられます。短鎖脂肪酸は、腸の細胞のエネルギー源になったり、腸の粘膜を守る働きを支えたり、腸内を健康に保つ環境づくりに関わっています。

そして、腸内細菌にもそれぞれ得意な食物繊維があります。ある菌は水溶性食物繊維を利用しやすく、別の菌は不溶性食物繊維を利用しやすいなど、菌によって好む“エサ”が違います。

週単位で考える、無理のない食卓の工夫

そのため、腸育で大切なのは、特定の食品や食物繊維に偏るのではなく、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維をバランスよくとることです。一つの食品をたくさん食べるよりも、野菜、果物、豆類、きのこ、海藻、穀類など、いろいろな食品を少しずつ取り入れていきましょう。

例えば、いつもの白いごはんに、時々もち麦や雑穀を加えてみる。おみそ汁に、野菜だけでなく、きのこや海藻も入れてみる。おやつに、果物やさつまいもを選んでみる。そうした小さな工夫でも、食べられる食材の種類は少しずつ増えていきます。

毎食、たくさんの食品をそろえる必要はありません。「今日だけで何種類食べたか」ではなく、「今週はどんな食材に出会えたかな」と、週単位で考えてみると続けやすくなります。

安全を最優先に、ゆっくりと広げる「腸育」

ただし、食物アレルギーがある場合や、特定の食品を食べると症状が出る場合には、安全を最優先にしましょう。自己判断で除去したり、食べるのを再開したりせず、医師に相談してください。

その子の体調や発達に合わせて、食べられる食品の幅をゆっくり広げていくこと。それが腸内細菌の多様性を育て、子どもの将来の健康の土台をつくる「腸育」です。

監修医師

ことびあクリニック恵比寿院 
手島 麻登里(てしま まどり)

医師(ことびあクリニック恵比寿院 非常勤医師 小児循環器科)
日本小児科学会 小児科専門医・指導医

防衛医科大学校を卒業後、陸上自衛隊医官として従事。その後、国立循環器病研究センター小児循環器科などで専門的な研鑽を重ねてまいりました。 現在は日本小児科学会小児科専門医・指導医として、後進の育成にも尽力しています。保護者の方々の「ちょっとした心配」から「専門的な悩み」まで、確かな医学的根拠をもとに解決の糸口となれるよう、丁寧で温かみのある診療を心がけています。